男鹿の於仁丸ストーリー



 男鹿の門前、長楽寺のほとり。昔々、赤神神社の五社堂の九百九十九段の石段が出来る前のこと…。 堂守りの娘おゆうは、「鬼」と呼ばれる異邦人・於仁丸と恋仲だった。
 今日も社への道を掃き清めながら、恋しい於仁丸がやって来るのをまっている。 そうとも知らず美しいおゆうに想いを寄せる歌人・源義房が近付く。驚いて走り去るおゆう。
 約束の時、忽然と姿を現す於仁丸。「会いたかったでゃ−」、束の間の逢瀬に愛を確かめ合う二人。 だがそこへ、五社堂参りの里人の声。急いで身を隠す於仁丸。
 里人たちの話題は、崖伝いの険しい道のりの事。「安全な近道がほしい。 真っすぐなキダハシ(石段)があれば…」、ここ何十年もの皆の願いだ。
 そこへもう一人、おゆうに恋する好色なお大尽、金売り商人の黄金丸がやってくる。 どっさりと土産を持ち、おゆうを嫁(妾)にくれるなら、おゆうには宝の山を、 里人にはキダハシの材料を提供しようという。喜び、狂喜乱舞する里人たち。 義房も、「都に咲きてこそ花ならん…」と愛の歌を詠み、都へと誘う。
 しかしおゆうは二人の求婚を拒み、於仁丸との愛を里人たちに告げる。「ヤヤコもいる」と。 里人たちの驚愕と拒否。「あれは人では無!鬼だでや!」「祟りだ。ケガレだ!」於仁丸が現われ、 「おゆうを嫁にけでけれ」と両親に頭を下げる。両親は拒絶し、里人からは石が投げつけられる。 絶望したおゆうは、両親と里を捨て、於仁丸との愛に生きようとする。その様子を見ていた里人たちは、 一つの案を於仁丸に持ちかける。「五社堂の石段をひと月目の朝迄に仕上げればおゆうを嫁にやる」と。

 於仁丸はそれを受け二人の手下と不眠不休の作業が始まる。懸命に働く於仁丸。 次第に出来上がっていく石段。最後の夜明け間近、おゆうの作った汁で体を暖めた於仁丸達が、 最後の石を運ぶ。あと一段が完成すれば!!

 その時、「コケコッコー!」里人の声が響く。おゆうの驚き!於仁丸の絶叫!! 「俺に力が足りなかった」とおゆうに詫びる於仁丸。「何とか一緒に」という義房の言葉を里人は聞き入れない。 嘆き悲しむおゆうの前から於仁丸の姿が忽然と消える。おゆうの好きなハマナスの花を一輪、石段に残して。
 月日がたち噂が流れる。「小正月の暮れ方、赤神のお使いがお清めにやってくる!」と。

「泣く子はいねがー!」大音声を轟かせ、お使いはやってきた。鬼か!神か!恐怖にひれふす里人たち。 やがておゆうを愛撫するように近付いたお使いが、おゆうの赤子を抱きとる。ハッと見つめるおゆう。 降りしきる雪の中、二人の愛の歌が響く。思わず両手を合わせる里人に、 「来年もまた来るぞ!来年へた来るぞ!」の声を残して、お使いは去ってゆく。